2024.07.23

カーボンフリーとは? 企業視点でカーボンニュートラルとの違いと意味を理解する

カーボンフリーとは、二酸化炭素を含む温室効果ガスを一切排出しないことを指し、国家や企業が追求すべきクリーンエネルギーの最終形ともいわれています。

こちらの記事では、カーボンフリーとカーボンニュートラルの違い、そしてカーボンフリーを目指すために課題にどのように向き合うかについてわかりやすく解説します。

1. カーボンフリーとは

カーボンフリーとは、前述の通り、製品の製造やエネルギーの使用において二酸化炭素(CO2)を含む温室効果ガスを一切排出しない状態を指します。
温室効果ガスとは、その約9割が二酸化炭素(CO2)で、それ以外はメタン、一酸化二窒素、ハイドロフルオロカーボン類、パーフルオロカーボン類、六ふっ化硫黄、三ふっ化窒素などのことを指します。


出典:環境省 2021年度 温室効果ガス排出量について
参考:資源エネルギー庁

2015年に採択されたパリ協定では「世界的な平均気温上昇を産業革命以前 に比べて2度より十分低く保つとともに、1.5度に抑える努力を追求すること」 という世界共通の長期目標を掲げ、国際的な取り組みがスタートしました。



参考:パリ協定とは(全国地球温暖化防止活動推進センター)

企業や国家は、風力や太陽光などの再生可能エネルギーを使用するなどして、温室効果ガスが発生しないように取り組むなどしています。

では、カーボンフリーと混同されやすい「カーボンニュートラル」とはどのような違いがあるのでしょうか。

2. カーボンフリーとカーボンニュートラルとの違い

2.1 カーボンニュートラルとカーボンフリーの意味の違い

カーボンニュートラルとカーボンフリーは、どちらも気候変動対策に重要な概念です。
カーボンニュートラルは、排出した二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスを別の方法で吸収することで、実質的に排出ゼロを目指すことを意味します。一方、カーボンフリーは最初からCO2を一切排出しないエネルギー源やプロセスを利用することです。

つまり、カーボンニュートラルでは、例えばカーボンオフセットの購入などの相殺する手段を通じて、排出量と吸収量を差し引きし、プラマイゼロの状態を目指しており、
カーボンフリーでは、再生可能エネルギーの利用や、非化石燃料の導入などを通じて、初めから温室効果ガスを発生させない脱炭素化への取り組みを目指しています。

2.2 カーボンニュートラルとネットゼロの違い

ネットゼロは、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするという概念で、ほぼカーボンニュートラルと同じ使われ方をしています(実質ゼロと同じ=ネットゼロ)。

実際には、完全なカーボンフリーの実現は難しいと考えられております。現状では、カーボンフリーができるところはカーボンフリー化を進め、バランスの取れたカーボンニュートラルな環境を目指す動きが進んでいます。

3. カーボンフリー実現に向けた新エネルギーの役割

カーボンフリーエネルギーとは、太陽光、風力、水力などの温室効果ガスが発生しないエネルギーを指します。それらについて、一つずつ見ていきましょう。

3.1 風力発電の役割

風力発電は、地球に優しいカーボンフリーエネルギーの一つであり、風の力を利用して電力を生成する技術です。CO2を一切排出せず、持続可能なエネルギー供給を実現する点で有用で、風力発電所を適切な立地に設置することで効果的に電力を供給できます。近年では、技術の進歩と共に風力タービンの効率も向上し、コストパフォーマンスも高くなっています。
しかし、風力発電機を設置できる場所が限られてしまうなどの課題があります。
欧米諸国に比べると、導入が遅れてはいますが、日本でも2000年以降、導入件数は急激に増えています。

出典:新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)ホームページ

3.2 水力発電の役割

水力発電は、古くから利用されてきたカーボンフリーエネルギー源で、水の流れや落差を利用して発電する方法です。この方法もCO2を排出しないため、環境に優しいエネルギー源として評価されています。水力発電といえば、大きなダムを思い浮かべますが、近年では、中小規模の水力発電の建設が活発化しています。河川の流水だけではなく、上下水道や農業用水など、まだ未開発の地点が多く残されており、今後の開発が期待されています。しかしながら、開発には環境への影響が否定できず、また未開発地点は小規模かつ奥地のため開発済みの地点と比べてもコストが高いことが課題として挙げられます。

出典:資源エネルギー庁「包蔵水力(2017年3月)」

3.3 地熱発電の役割

地熱発電は、地下深くからの熱エネルギーを利用して発電するカーボンフリーエネルギーです。国が新エネルギーとして定義しているのは「バイナリー方式」に限られています。バイナリー方式とは、地熱流体の温度が低く、十分な蒸気が得られ ない時などに、地熱流体で沸点の低い媒体(例:ペンタン、沸点36℃)を加熱し、媒体蒸気でタービンを回して発電するものです。


出典:資源エネルギー庁(地熱発電)

3.4 太陽光発電の役割

太陽光発電は、太陽光を直接電気エネルギーに変える技術で、最も普及しているカーボンフリーエネルギーの一つです。太陽光発電は設置が比較的容易で、小規模な住宅から大規模な発電施設まで幅広く利用できます。CO2排出を一切行わないため、環境への影響が少なく、再生可能エネルギーとして非常に有望です。企業にとっては、エネルギーコストの削減やカーボンフットプリントの低減というメリットがあります。
しかしながら、天候によって電力量が左右されてしまうことは、太陽光発電の大きなデメリットです。


出典:資源エネルギー庁(太陽光発電)

いずれのエネルギーもカーボンフリーエネルギーとして期待されている一方、開発時の環境負荷やエネルギー供給の不安定さに課題があります。しかし、これらの問題と向き合い、解決へと努力することで、カーボンフリー実現は一歩近づくことでしょう。

 

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4. カーボンフリーの現状と抱える課題

カーボンフリーの実現は、カーボンニュートラル以上に厳しく、現実的にはかなり困難と言われています。しかし、2011年に元国連事務総長の潘基文氏によって「すべての人のための持続可能なエネルギー」イニシアチブを立ち上げ、現在は独立した組織となっている国際機関「24/7 Carbon Free Energy Compact」」は、カーボンフリーに向けた着実な取り組みを続けています。

24/7 Carbon Free Energy Compact

現在、カーボンフリーの段階に達している国家や企業は少なく、カーボンニュートラルの実現を目指す動きが中心となっています。

日本でも、2020年10月に、当時の菅内閣総理大臣が所信表明演説において、2050年までにカーボンニュートラルを目指すことを宣言、2021年4月には地球温暖化対策推進本部及び米国主催の気候サミットにおいて、「2050年目標と整合的で、野心的な目標として、2030年度に、温室効果ガスを2013年度から46%削減することを目指す。さらに、50%の高みに向けて、挑戦を続けていく」ことを表明しました。

資源エネルギー庁によると、2050年までにカーボンニュートラル表明国は147カ国であり、これらの国における世界全体のCO2排出量に占める割合は40%(2020年実績※)です。
また、中国(32%)、ロシア(5%)、インドネシア(2%)、サウジアラビア(1%)等は2060年まで、インド(7%)等は2070年までのCNを表明するなど、カーボンニュートラル目標を設定する動きが拡大しています。これらの国におけるCO2排出量は90%を占めています。

カーボンニュートラルを表明した国と地域

※GHG排出量は、IEA (2022), CO2 Emissions from Fuel Combustion(2020時点)を基にカウントし、エネルギー起源CO2のみ対象

出典 資源エネルギー庁 



では、実現には具体的にどのような課題があるのでしょうか。

4.1. 火力発電への依存から脱却が難しい

日本の温室効果ガスの排出は、年々減ってはいますが、そのうち約84%がエネルギー起源CO2の排出量です。
そして、資源エネルギー庁統計の発電実績によれば、約76%が火力発電に頼っています。

日本の温室効果ガス排出量の推移

出典:資源エネルギー庁

発電実績

出典:資源エネルギー庁 2024年3月 統計表一覧 発電実績より作成

日本のエネルギー自給率は低く、エネルギー資源のほとんどが海外からの輸入です。1970年代のオイルショックをきっかけに化石燃料への依存度を下げようとし、エネルギー源の分散が進みましたが、2011年の東日本大震災の影響で、原子力発電所が停止、再び火力発電が増加しました。

エネルギーを海外に依存していることで、国際情勢の変化は日本のエネルギー事情に大きな影響を与えます。例えば、ロシアのウクライナ侵攻などは、日本のエネルギー情勢にも多大な影響がありました。

主要国の一次エネルギー自給率比較(2021年)
日本の化石燃料輸入先(2022年)

出典:資源エネルギー庁(日本のエネルギー)

カーボンフリーを実現するためには、火力発電からの脱却が必要ですが、代替のエネルギー源の確保にまでは至っておりません。天候に左右されない、安定して大規模での供給力を持つ、需要に応じて供給量を調整できる等のメリットがある火力発電に依存しているのが現状です。

 

4.2. 検証が難しい

カーボンフリー・カーボンニュートラルを実現できているかどうかを検証するには、温室効果ガスの排出量、吸収量、除去量を正確に計測する必要があります。しかし、温室効果ガスのうち、もっとも多い二酸化炭素でさえ、大気中に0.03%しか存在せず、その計測には非常に高度な測定技術が求められます。しかし、現在の計測器の精度では、技術的に温室効果ガスを測定できません。

そこで、直接排出量を計測するのではなく、IPCC(気候変動に関する政府間パネル/1988年に設立された政府間組織)作成のガイドラインに沿って、排出係数をかけて計算をしており、科学的な裏付けが弱いのではないかと指摘されています。

4.3. 発展国と新興国とで生じる格差


カーボンフリーの実現に向けての課題として挙げられているのが、CO2排出基準の設定です。
現在は、「生産ベース」ですが、これは先進国にとって有利な設定といわれています。

例えば、先進国が新興国に工場をうつして生産をした場合、その過程で発生したCO2は新興国にカウントされます。工場が撤退した国のCO2は排出量が削減、移転した国のCO2は増加する形になります。

本来、エネルギーは、製品やサービスを受ける消費国のために使われるため、それを生産国に計上するのは実態を正しく反映しているとはいえないでしょう。

出典:資源エネルギー庁(エネルギー白書2020)

5. カーボンフリー実現に向けた取り組み

非常に困難な道のりとされるカーボンフリーの実現ですが、日本は着実に再生可能エネルギーの導入を進めています。

2021年の発表では、日本の再生可能エネルギーの導入量は世界第6位、とくに太陽光発電は世界第3位に位置しています。

出典:経済産業省 2030年に向けた今後の再エネ政策

カーボンフリーの実現に向け、注目されている新エネルギーをご紹介します。

5.1 水素社会の構築を目指す

最近、とくに注目されているのが「水素」。2017年には「水素基本戦略」として国家戦略が打ち出されました。水素は、さまざまな資源から作ることができ、エネルギーとして利用してもCO2を出さないことが特徴です。

水素基本戦略のポイントは下記の3点です。

1 2050年を視野に入れ、将来目指すべきビジョンを示したものであると同時に2030年までの行動計画
2 水素を再生可能エネルギーと並ぶ新しいエネルギーの選択肢として示す
3 水素をエネルギーとして活用するため、目標として従来エネルギーと同程度のコストにする

参考:資源エネルギー庁

水素は、多種多様な資源からつくることが可能で、将来的には燃料電池車や船舶だけでなく、航空機の燃料としても利用が拡大すると期待されています。
そんな水素には、「グレー水素」「ブルー水素」「グリーン水素」があります。

出典:資源エネルギー庁
化石燃料をベースとして作られた水素をグレー水素。
水素の製造過程で排出されたCO2を回収して貯留したり、利用(「CCS」や「CCUS」と呼ばれる技術)したりしてCO2排出を削減する手法で製造された水素を、ブルー水素。
再生可能エネルギーを使って、CO2を排出させずに作られた水素がグリーン水素、と呼ばれています。

水素社会を実現するためには、グレー水素を減らし、CO2を排出しない方法で水素を作る必要があります。そのための仕組み作りもまた重要でしょう。

5.2 アンモニアを用いた発電の可能性

火力発電の材料として注目されているのが、アンモニアです。

アンモニアは、多くは肥料として利用されていますが、燃焼時にCO2を発生させません。
将来的に石炭の代わりにアンモニアで発電できれば、CO2削減と同時に電力の供給ができると言われています。

水素と比較しても運搬も容易でコストが安いこともメリットとして挙げられています。
しかし、燃焼時に大気汚染の原因となる窒素酸化物が排出される、という課題は残されており、さらなる研究が進められています。

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6. 2050年に向けて

6.1. SDGsの目標「気候変動に具体的な対策を」とどう向き合うか

SDGs(持続可能な開発目標)の13番目の目標「気候変動に具体的な対策を」は、カーボンフリーと密接なかかわりがあります。近年、気候は大きく変動し、これまででは想像もしなかったほどの異常気象や自然災害が増加傾向にあります。

この異常気象の要因のひとつに「地球温暖化」が挙げられており、より具体的な対策が求められています。

6.2. ネガティブエミッション技術とは

日本では、2050年に向けて、下記のようなカーボンニュートラル転換イメージを掲げています。
カーボンニュートラルを実現するためには、どうしても避けられない温室効果ガス排出を吸収するネガティブエミッション技術が不可欠です。
出典:経済産業省 ネガティブエミッション技術について

ネガティブエミッション技術(NETs)とは、大気中のCO2を回収・吸収し、貯留・固定化することで大気中のCO2除去(CDR, Carbon Dioxide Removal)に資する技術のことです。

大きく分けると、自然的なプロセスを人為的に促進させる方法と、
工学的な手法によって大気中のCO2を削減させる方法とがあります。

出典:経済産業省 ネガティブエミッション技術について

例えば、自然的なプロセスを人為的に促進させる方法として有名なのが、木を植えて林を作る植林や、再生林。
工学的な手法によって大気中のCO2を削減させる方法として有名なのがCCSです。

CCSとは、「Carbon dioxide Capture and Storage」の略で、「二酸化炭素回収・貯留」する技術を指します。発電所や工場などから排出されたCO2を他の気体から分離して回収し、地中の奥深くに貯留させる技術です。 上図にあるBECCSは、CCSとバイオマス発電を組み合わせた技術のことを指します。

ちなみに、「CCS」と並んで語られることの多い「CCUS」は、「Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage」の略で、分離・貯留したCO2を利用しようとするものです。


出典:資源エネルギー庁

バイオマス発電とは? 仕組みとメリットを解説

7. 世界的企業の脱炭素への取り組み

世界的企業は、積極的にカーボンフリーを目指す取り組みをおこなっています。

Googleは「2030年までに24時間365日カーボンフリーで事業を運営する」とし、自社のオフィスや世界中のデータセンターで使用するエネルギーの100%をカーボンフリーにすると宣言しました。

参考:Google CEOからのメッセ―ジ

また、花王株式会社は、2040年までにカーボンフリー、2050年までにカーボンネガティブを目指すことを宣言し、話題になりました。

参考:花王株式会社 2040年カーボンゼロ実現に向けて、コーポレートPPAを花王で初採用

こういった企業の取り組みは、他の業界、企業へも波及しています。
カーボンフリーへの取り組みを表明している企業の多くは、まずはカーボンニュートラルから取り組み、再生可能エネルギーに切り替えるなど、できることから始めています。

脱炭素社会とは?

7.1. 企業が2030年、そして2050年に目指すビジョン

カーボンフリーへの道のりは非常に困難で、とくに個人でできることは限られてしまいます。しかし、カーボンフリーを実現するための技術は日々進歩しており、世界的にも国家・企業単位で前向きな取り組みが進んでいます。

2030年に向けて、そしてその先の2050年に向けて、カーボンフリーを実現するための明確なビジョンを持つことが重要です。
まずは、再生可能エネルギーへの切り替えの検討・カーボンオフセット(温室効果ガスの埋め合わせの仕組み)などを活用する、などできることから始めてみましょう。

また、製品ライフサイクル全体でのCO2排出を最小限に抑えるための工夫や革新も必要です。
さらに、サプライチェーン全体でのカーボンフリー化を目指し、パートナー企業と連携して取り組んでみてはいかがでしょうか。

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