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2024.05.13
区分所有法とは、正式名称を「建物の区分所有等に関する法律」といい、マンションや団地など、一つの建物に複数の人や世帯が暮らす集合住宅における基本的なルールを定めた法律です。
一戸建ての建物は、原則的に一つの建物につき一つの所有権なので民法が管轄します。一方、集合住宅の場合、小分けにされた各室ごとの専有部分については所有者が自由に管理・維持しますが、エントランスやエレベーターなどの共用部分、あるいは建物全体の管理や修繕、建替えなどの重要な事項についてはすべての所有者の意思を確認し、反映するようにしなくてはいけません。所有者の人数が多くなると、円滑に一つの建物の維持・管理が円滑にできなくなるため、民法の特別法として区分所有法が制定されているのです。
区分所有法は、1962年の制定から50年以上が経過しますが社会制度が変わる度に何度も改正が行われています。2024年度の国会でも新たな改正案が提出される見込みです。今回、区分所有法改正が議論されている背景には、集合住宅を取り巻く3つの大きな問題があります。
1つ目は、集合住宅の老朽化が進行していることです。国土交通省のデータでは、全国の集合住宅のストック数は約685.9万戸で、1,500万人超が居住しています。そのうち20%弱にあたる115.6万戸が築40年超の集合住宅です。10年後には249.1万戸、20年後には425.4万戸と割合が増加する見込みです。しかし、集合住宅の建替えは2021年時点の累計で約2万戸程度に留まっているのが実態です。建物の老朽化を抑制し、周辺への危害等を防止するための維持管理の適正化はもちろん、維持修繕等が困難になった集合住宅の再生に向けた取組の強化が喫緊の課題です。また、集合住宅だけではなく、集合住宅に住む人の高齢化も進んでいます。そのため、管理組合の役員の担い手不足や総会の運営や議決が困難になっている集合住宅は少なくありません。
2つ目は、都市部を中⼼に増えているタワーマンションなど、大規模集合住宅の合意形成が年々困難になっていることです。全国のタワーマンションの数は2022年末時点で約1500棟ありますが、およそ 400棟は2003年以前の竣⼯で築20年以上経過しています。しかし、年齢層が様々で所有者が非常に多いタワーマンションは、投機⽬的で購⼊した海外居住者や決議に無関⼼な所有者らが集会に参加しない場合が少なくありません。そのため、建物の維持や管理のための合意形成を図りにくく、円滑な⼯事の障壁になっています。
3つ目は集合住宅内の「空き家」の増加です。全国の空き家件数は、最新の2018年度の調査で846万戸とされていますが、このうち半数以上を区分住宅が占めています。とくに都市部では区分住宅の空き家の数が多く、東京都では空き家に占める区分住宅の割合は7割以上です。近年では相続で所有権を取得したり、投資のために区分住宅を購入するケースも増えているため、所在不明または非居住所有者が増えているのです。
区分所有法(旧法)では、マンションなど共同住宅の円滑な維持・管理・再生を推進するために決議要件が定められています。決議に必要な多数決要件は、以下のとおり厳しめに設定されています。
決議の内容 | 多数決要件 |
共用部の簡易な修繕など(普通決議) | 所有者の過半数 |
共用部の構造に関わる大規模修繕(特別決議) | 所有者の4分の3以上 |
建て替え | 所有者の5分の4以上 |
上記の多数決要件を満たした合意形成は、非常に難しいのが実情です。
たとえば、所有者が外国人や高齢者、所有者が不明・居住していないなどの方が多くいる集合住宅の場合では、居住している所有者のほとんどが賛成している決議内容でも合意が取れないという事態が発生しています。
国土交通省によれば、2023年3月までに建て替えなどが実施されたマンションは、わずか282件(国土交通省より)。
メンテナンスや修繕・建て替えなどの議決を早急に取らなくてはいけないのに、実施されていないマンションが非常に多く存在しているのです。
そうした現状を踏まえ、2014年度には、マンション建替え円滑化法が改正され、マンション敷地売却事業や容積率の緩和特例の適用対象が拡大されましたが、それでも件数はそこまで増えていません。
そこで、区分所有法を改正して決議の円滑化を図る仕組みと、多数決要件の緩和策を盛り込むことが必要となったのです。改正のポイントは「区分所有建物の管理の円滑化」「区分所有建物の再生の円滑化」という2つのテーマに分けられます。 区分所有建物の管理の円滑化は、集会決議そのものの円滑化と、共用部分の変更決議の円滑化、区分所有建物の管理に特化した財産管理制度の創設が骨子です。
死亡や相続で連絡がつかず、決議に参加しない所有者は少なくありません。旧法では、このような所在不明の区分所有者(不在所有者)は「決議に反対する者」として扱われていたため、決議要件を満たすことを阻害していました。そこで、管理組合などから請求があったときに、裁判所の判断で所在不明所有者を決議の分母から除外できる仕組みを創設したのです。
また、所在不明でなくとも、高齢・病気・怪我、あるいは海外に居住する(主に投資目的の場合)などの理由で所有者が決議に出席できないケースを想定して、以下の決議では旧法の多数決要件を維持しつつ、所有者ではなく「出席者」の多数決による決議を可能としています。
なお、所有者が国外に居住する場合、国内の居住者を「国内管理人」に選任できる案も盛り込まれました。国内管理人は、保存行為や総会における議決権の行使などができます。
共用部の変更決議については、現行制度では所有者および議決権の「4分の3以上」の賛成が必要ですが、この要件を満たすことは容易でなく、必要な工事等が迅速におこなえない場合があります。そこで、他人の権利などが侵害されるおそれがある場合における共用部分の変更や、バリアフリー基準への適合のための変更については「3分の2以上」の賛成に緩和されます。
所有者が不明な専用部分や、管理が不適当な専用部分・共用部分に対して利害関係者が裁判所に申し立てると、管理人を選出し管理を命ずる制度が創設されます。
区分所有法改正のもう1つのテーマは、区分所有建物の再生の円滑化です。再生とは、具体的には建て替えを意味します。建て替え決議は、区分所有者及び議決権の各5分の4以上という厳しい多数決要件が必要で、満たすのは容易ではありません。そのため、必要な建て替えが迅速におこなうことができず建物の耐震性や火災リスクの回避ができないままとなってしまいます。そこで、基本的な多数決要件は今までどおりとするものの、集合住宅が耐震性・火災の安全性に適合していないなど下記の5つの事由に該当する場合については、多数決要件を各「4分の3以上」と緩和します。
また、建物・敷地一括売却や建物の取壊し等を行うには、区分所有者全員の同意が必要であり、事実上困難なため、多数決による一括売却や取壊し等を可能とする仕組みが検討されています。また、既存躯体を維持しながら専有部分を含む建物全体を更新して、実質的な建て替えを実現する「一棟リノベーション工事」が技術的に可能になっていますが、区分所有者全員の同意が必要で、事実上困難です。そこで、建て替えと同等の多数決による一棟リノベーション工事を可能とする仕組みが検討されています。
また、1995年の阪神大震災をきっかけに制定され、大規模災害で被害を受けた場合に適用される「被災マンション法」も見直すことになりました。被災した建物であっても、建て替えや取り壊し、敷地の売却には先ほど説明したとおり所有者の5分の4の賛成が必要で、迅速な復興を妨げるとの指摘が挙がっていました。そこで所在不明所有者を決議の分母から除外する仕組みを採用し、多数決割合も「3分の2」に引き下げること、被災して建物の価値が2分の1を超えて失われた集合住宅は、政府が災害を認定してから1年以内に賛成決議をしないと被災マンション法が適用されなかったのを3年以内に延ばし、再延長もできるようにすることとしました。
区分所有法の改正は、実際に住宅メーカーの間ではどのように考えられているのでしょうか。「耐震性不足やバリアフリー基準への不適合などが認められるマンションの建て替えや変更の決議を認めやすくしたことで、築30年以上のマンションで宅配ボックスの増設や共有部分の改築は進むだろう(大手ハウスメーカー)」と集合住宅の維持・管理への貢献について一定の効果があると評価する声が多いです。一方、「集合住宅の所有者に費用負担や転居に伴う負担を強いることになるため、即時に建て替えが進むというわけではない(大手ディベロッパー)」と冷静に評価する意見も少なくありません。しかし、決議要件の緩和という部分だけでなく、集合住宅を適正に維持・管理しやすくするなどプラスの効果については間違いなく認められるものです。区分所有法の改正は、集合住宅を生活の拠点とする全ての所有者にとって他人事ではなく、管理組合の一員であることを改めて認識する機会となるでしょう。
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